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農地転用の手続を考える



農地転用と水利承諾についての一意見

「地元の承諾がないと
進められない」
それは本当に当然でしょうか。

農地転用では、用排水や周辺農地への影響を慎重に確認する必要があります。一方で、承諾書が事実上の拒否権のように扱われ、本来の目的を超えた条件まで求められるとすれば、制度のあり方として考える余地があります。

The issue

水利関係者との協議は大切です。
しかし、何でも承諾の条件にしてよいわけではありません。

農地を宅地、駐車場、事業用地などへ転用すると、雨水の流れ方や排水量が変わる場合があります。そのため、用排水施設の管理者や周辺耕作者と事前に協議することには、十分な意味があります。

問題は、水利施設への具体的な影響を確認するための協議と、地域団体への加入、将来にわたる包括的な約束、根拠の分かりにくい金銭負担などが、一体の条件として扱われてしまう場合です。

Questions

現場で考えるべき、3つの疑問

誰かを非難するためではなく、農地を守りながら公平な手続を実現するために、次の点は整理される必要があると考えます。

1

承諾書は、常に絶対的な申請条件なのでしょうか

周辺農地への支障がないことを排水計画や被害防除措置で説明できる場合でも、第三者の署名がなければ申請自体を進められないのでしょうか。

2

承諾の範囲が広がり過ぎていないでしょうか

水路の維持管理や損害防止を超えて、地域活動への参加、将来の土地利用、第三者への承継などまで一括して求めることは適切でしょうか。

3

金銭負担の根拠は明確でしょうか

実際の維持管理費や施設改修費であれば合理性があります。一方、規約、決議、算定方法、使途、会計処理が示されない負担は、丁寧な説明が必要です。

Balance

必要な水利協議と、疑問が残る条件は分けて考える

水利関係者の意見を軽視してよいという話ではありません。大切なのは、転用によって生じる具体的な影響と、それとは直接関係しない条件を整理することです。

合理性が認められやすい確認事項

  • 放流先、排水経路、計画流量の確認
  • 水路の断面・勾配・排水能力の検討
  • 土砂流出や濁水を防ぐための対策
  • 工事により水路を損傷した場合の復旧
  • 具体的な施設改修費や維持管理費の分担

慎重な検討が必要な条件

  • 理由を示さず署名を拒むこと
  • 排水と直接関係しない包括的な誓約
  • 規約や算定根拠が明示されない金銭負担
  • 個人的な関係を承諾判断に持ち込むこと
  • 将来の譲受人まで無制限に拘束すること

Why it matters

善意の地域調整が「見えない許可条件」にならないために

POINT 01

第三者の署名が事実上の拒否権になる可能性

行政が許可基準に基づいて判断すべき事項まで、地域の一個人や任意団体の意思だけで止まる仕組みになると、判断過程が不透明になりかねません。

POINT 02

必要な負担と、根拠の不明な負担が混同される可能性

農業用施設の改修、将来の維持管理、損失の補填など、実費に基づく負担が必要な場合はあります。だからこそ、徴収主体、規約、決議、算定方法、使途を明確にすることが重要です。

POINT 03

本来守るべき周辺農地の安全が見えにくくなる可能性

署名の有無だけが注目されると、本当に確認すべき排水能力、流量、溢水リスク、農作業への影響などの技術的検討がかえって薄くなるおそれがあります。

Procedure

「承諾がない」ことと「許可できない」ことは、同じではありません

農地転用の許可では、農地の区分、転用目的の確実性、周辺農地や農業用用排水施設への影響などが審査されます。水利関係者の承諾は重要な参考資料になり得ますが、行政には、個別の計画内容と許可基準に基づいて判断することが求められます。

農林水産省の農地転用許可事務に関する処理要領では、水利権者などの同意を証する書面について、同意を得ている場合に提出するという整理がされています。また、個別案件で特に必要な資料を求めることはあり得る一方、追加資料を一律に求める運用は適切でないという考え方も示されています。

したがって、「承諾書がないから必ず許可されない」と直ちに決まるものではない一方、「承諾書がなくても何の説明も要らない」というものでもありません。

承諾が得られない場合には、その理由や協議経過を整理し、排水計画、流量計算、水路の能力、雨水流出抑制、被害防除措置などによって、周辺農地へ支障がないことを具体的に説明する必要があります。

Supreme Court decision

令和元年の最高裁判決が示した
「水利権の範囲」という考え方

農地転用許可そのものを争った判例ではありませんが、水利関係者が第三者の排水をどこまで排除できるのかを考えるうえで参考になる最高裁判決があります。

令和元年7月18日

最高裁判所第一小法廷・使用料請求事件

この事件では、河川法23条の許可を受けて河川から取水していた土地改良区が、農業用の用排水路へ浄化槽処理水を流していた周辺住民に対し、排他的管理権が侵害されたとして使用料相当額を請求しました。

高等裁判所は土地改良区の請求を一部認めましたが、最高裁判所はその判断を破棄し、土地改良区の請求を認めませんでした。

最高裁判所が示した要点公水を使用する権利は、許可された使用目的を満たすために必要な範囲の流水を使用できる権利であり、その範囲を超えて、他人による流水の使用を当然に排除できるものではないと判断しました。そのため、かんがい目的で許可を受けた水が流れているというだけで、直ちに第三者の排水を禁止できるとはいえないとされました。

この判決からは、「水利権を持っている、又は水路を事実上管理している」という理由だけで、あらゆる排水を自由に拒否できるとは限らないという考え方を読み取ることができます。

また、補足意見では、水路が公的財産である場合、その管理権限を持つ自治体と、実際に維持管理を行ってきた土地改良区との法的関係を明確にし、維持管理や費用負担のあり方を法令に基づいて整理する必要があるとの指摘もされています。

この判例を読む際の注意点

  • 農地転用許可や水利承諾書の要否を直接判断した判例ではありません。
  • 第三者が無条件で農業用水路へ排水できると判断したものでもありません。
  • 水路の所有権、管理権限、条例上の許可、施設への具体的な支障や損害は、別途確認する必要があります。
  • 正式な規程や具体的な維持管理費に基づく費用負担まで、すべて否定した判例ではありません。

この判例が今回の問題提起に与える示唆は、「水利関係者の承諾が不要」という単純な結論ではありません。承諾を求めるのであれば、誰が、どの権限に基づき、どのような具体的支障を防ぐために求めているのかを明らかにする必要がある、という点です。

農地転用においても、署名の有無だけで判断するのではなく、水路の所有・管理関係、排水能力、農業への具体的影響、維持管理費の根拠を個別に確認することが、より透明で納得しやすい手続につながると考えます。

A better process

望ましいのは、署名の有無だけに頼らない透明な協議です

まず、具体的な影響を確認する

どこへ、どれだけの雨水を流すのか。水路の能力は足りるのか。農地や農作業にどのような影響があるのかを図面と計算で確認します。

懸念事項を文書で共有する

承諾できない場合には、「誰が嫌だから」ではなく、越水、土砂流入、維持管理などの具体的な理由を示し、改善可能な点を明らかにします。

金銭負担の根拠を明らかにする

負担を求める場合は、団体の法的性格、規約、総会等の決議、算定方法、使途、領収・会計処理を説明できる状態にします。

最後は行政が許可基準に基づいて判断する

関係者の意見を踏まえつつも、単なる署名の有無ではなく、計画内容と提出資料に基づいて、行政が許可の可否を判断することが望まれます。

FAQ

よくある疑問

水利承諾書を求めること自体がおかしいのでしょうか。

一概にそうとはいえません。転用によって用排水施設や周辺農地へ影響が生じる場合があるため、事前協議や意見確認には合理的な意味があります。問題となるのは、その範囲、判断理由、金銭負担の根拠などが不透明な場合です。

承諾書がなければ、必ず申請できないのでしょうか。

案件や行政庁の運用、使用する施設の権利関係などによって異なります。しかし、承諾書が得られないという一事だけで終わらせず、未取得の理由、協議経過、排水計画、被害防除措置を示し、許可基準に基づく審査を求める余地があります。

地域団体への負担金は、すべて問題なのでしょうか。

すべてが問題というわけではありません。土地改良施設の維持管理や改修に伴う合理的な費用、正式な規程に基づく決済金などが必要となる場合があります。徴収主体と法的根拠、算定方法、使途、会計処理を確認することが大切です。

行政は地域の意向を無視すべきなのでしょうか。

地域の農業環境を守るため、関係者の具体的な懸念には十分配慮すべきです。ただし、最終的な行政判断は、人間関係や抽象的な反対ではなく、法令上の許可基準と客観的な資料に基づくことが望まれます。

令和元年の最高裁判決があれば、水利承諾は不要といえますか。

そのようにはいえません。この判決は、公水使用権だけを理由に第三者の排水を当然に排除できるかを判断したものです。農地転用の許可基準、水路の所有・管理権限、別の法令による許可、現実の排水被害などは個別に検討する必要があります。

Our view

地域の農業を守ることと、公正な行政手続を守ること。どちらか一方を選ぶ問題ではありません。

水利関係者の知見は、地域の用排水を守るうえで欠かせません。同時に、承諾の範囲や負担の根拠を明らかにし、技術的な安全性を客観的に確認することも必要です。対立を深めるのではなく、何を守るための条件なのかを一つずつ整理することが、より良い農地転用手続につながると考えます。

本ページは、農地転用制度のより透明で合理的な運用を願う立場からの一般的な問題提起です。個別の団体、自治体または関係者の行為について、適法・違法を断定するものではありません。

参考情報

※掲載内容は一般的な情報および意見であり、個別案件に対する法的判断を示すものではありません。水路の所有・管理関係、土地改良区の規程、排水計画、各行政庁の審査内容などにより取扱いは異なります。具体的な紛争性がある場合や、金銭請求の適法性について判断が必要な場合は、弁護士への相談をご検討ください。



農地転用と水利承諾について考える情報ページ


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